きゃらりこ日誌

2019年12月

PC・家電 / 技術

インクジェットプリンタ用OHPシートを、レーザープリンタで使っちゃダメ?

とあるブログで、100円ショップのUVレジンを使ってスタンプを自作する方法が紹介されていました。
UVレジンの上に白黒反転した図柄を印刷した透明シートを乗せ、上から紫外線をあててレジンを硬化させ、紫外線が当たっておらずレジンが固まっていない部分を洗い流すと凸版ができるので、それをスタンプにするという方法です。

ちなみにフレキソ印刷では、UVレジンの代わりに感光性樹脂凸版(Photopolymer Printing Plate)※を使って版を作っているのですが、これと同じ原理ですね。
なお余談になりますが、この樹脂版を、自家製のレタープレス(活版印刷)に利用している人もいるようです。

※メーカーによっては「水現像ナイロン系感光性樹脂凸版」・「液状感光性樹脂版」・「水現像レタープレス感光性樹脂版」とも呼ばれている。商品名は、東洋紡「プリンタイト」・東レ「水なし平版」「トレリーフ」・富士フィルムグローバルグラフックシステムズ「富士トレリーフ」・東京応化工業「リジロン」・旭化成イーマテリアルズ「APR」・Miraclon(旧Kodak)「Miraclon」など。

レーザープリンタで、インクジェットプリンタ用OHPシートは使えないの?

樹脂版は感光性樹脂凸版の入手が難しい上に安くはないので、まずはUVレジンを試してみようと決めました。
まずは図柄を印刷した透明フィルムを用意しなければいけません。
デザインをパソコンで作る場合は、インクジェットプリンタ用のOHPシートが利用できるそうです。
ただし我が家にあるのはレーザープリンタで、レーザプリンタ対応のOHPシートはメーカー取り寄せになるうえに、割高でした。
家電量販店にある、透明ラベル作成キットなどが活用できないかと考えて探してみましたが、こちらもレーザプリンタに対応した商品はごくわずかで、割高でした。
そこでインクジェットプリンタ用のOHPシートを、レーザプリンタで使えないかどうかを調べてみました。

インクジェットプリンタの印刷の原理

まずは、インクジェットプリンタ・レーザプリンタの印刷の原理を理解することから始めます。
インクジェットプリンタは、紙に液体インクを直接吹きつけ、紙にインクを吸収させることでインクを定着させます。

レーザプリンタの印刷の原理

一方レーザプリンタは、粉末状のトナーを静電気の力で紙の上に乗せます。
そして定着ローラーでトナーを加熱して溶かし、同時に加圧ローラーで紙に押しつけることでトナーを紙に接着させています。
ちなみにレーザプリンタから出てきた紙がほんのり温かかったり、レーザプリンタの消費電力が大きめなのは、定着ローラーの加熱工程が原因です。
トナーの成分表
トナーの成分の一例
「安全データシート PR-L5850C-12/PR-L5850C-17 トナー(マゼンタ)」(日本電気、2017年10月)より

ここで気になったのは、トナーを解かす温度です。
OHPシートの耐熱温度と、何か関係がありそうな予感がします。

トナーを溶かす温度を調べてみましたが、機種・紙の厚みにもよりますが170℃前後のようです。
しかし、あるプリンタのマニュアルで、「使用できない用紙」の中に気になる記述を発見しました。
耐熱性(230度)のない特殊加工をしてあるもの
(「C301dn/C312dn C511dn/C531dn ユーザーズマニュアル セットアップと使い方編」沖電気、2012年7月、53ページ より)

厚紙に印刷する場合は200℃程度まで温度を上げることがあるそうなので、用紙の耐熱温度は多少の余裕をみて230℃に設定されているのだと思われます。

OHPシートの耐熱温度と表面加工

次に、OHPシートの耐熱温度について調べてみました。
まず手書き用のOHPシートの耐熱温度は、安価なポリエステル製では70~90℃です。
一方、プリンタ用のOHPシートは、インクジェットプリンタ用はペット樹脂と書いてありますが、詳細な種類は書いていません。
おそらく安価な非晶性ペット樹脂(A-PET)だと思われます。耐熱温度は70℃です。
またペット樹脂は水性インクをはじいてしまうので、表面にインクを吸収しやすくするプライマーが塗られています。
しかしプライマーも万能ではないので、プラスチック系樹脂を染めやすい染料インクが指定されていることが多いようです。

レーザプリンタ用もペット樹脂と書いてありますが、詳細な種類は書いていません。
トナーの温度から考えると、結晶性ペット樹脂(C-PET)が使われているはずなので、耐熱温度は220℃です。
前述のレーザプリンタのマニュアルにあった、用紙の耐熱温度230℃と大差ないので、まず問題にならないと思います。

結論:レーザープリンタで、インクジェット用OHPシートを使っちゃダメ

前述のように、レーザプリンタのトナーを溶かす温度は170℃前後であることから、耐熱温度が70℃の手書き用・インクジェットプリンタ用のOHPシートを使うと、OHPシートが溶けて定着ローラーと加圧ローラーに付着する恐れがあるので、やめたほうが良いことがわかりました。
割高でも、レーザープリンタ用のOHPシートを買いましょう。

ただ、レーザプリンタでインクジェット用OHPシートを使ってみたけど大丈夫だったと書かれているブログがいくつかあるのが気になります。
今は大丈夫かもしれないけれど、どう考えても故障の原因にしかならないのでやめたほうがよいでしょう。
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