きゃらりこ日誌

2019年11月

時事・社会 / 技術

5Gは電波が届きにくいって本当?

ここ数年、携帯電話業界界隈では「5G」(第5世代携帯通信システム)がバズワードになっています。
「5Gは、従来に比べて基地局1つあたりのサービスエリアが狭くなるため、4G並みのサービスエリアを確保するためには、基地局の増設が必要」という主張をしているブログを見つけました。
その根拠が気になったのですが、どこにも書かれておらず、過去の記事だったのでコメント欄で聞くわけにもいかず…ということで、その根拠を調べてみました。

4Gの周波数帯域は?

まず現在の4Gでは、どの周波数が使われているかを把握する必要があります。
調べてみると主に、800MHz帯・1.5GHz・1.7GHz帯(通称 東名阪バンド)・2GHz帯・3.5GHz帯が使われていることがわかりました。
そのうち、800MHz帯・1.5/1.7GHz帯・2GHz帯が各社の主力として使われています。

周波数帯域ごとの、3G・4G・LTE・BWAの基地局数
平成30年度 携帯電話・全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果及び評価結果の概要」(総務省総合通信基盤局 電波部移動通信課、2018年8月)より

800MHz帯
800MHz帯は、建物内に居たり、障害物があっても回折で電波が届きやすいことから、700~900MHz帯は「プラチナバンド」と呼ばれています。
ちなみにこの下の700MHz帯は、かつてアナログテレビ放送(UHF)の50~62チャンネルに割り当てられており、このことからも電波が届きやすいことがよくわかります。
1.7GHz帯
1.7GHz帯は、2GHz帯に近いため補完として使用されています。
大都市圏の周波数ひっ迫対策として、一部の周波数を防衛省の通信システムと周波数と共用していたことから、防衛省との混信を防ぐために東京・名古屋・大阪周辺でしか使うことができませんでした。
このことから「東名阪バンド」と呼ばれていました。
現在は防衛省の通信システムが4.5GHz帯に移ったため全国で使えるようになりましたが、かつての名残で主に大都市圏を中心に使用されています。
なお楽天モバイルの4G用の周波数帯域は、1.7GHz帯のみです。
ちなみにこの上の1.8GHz帯は、PHSで使用されていました。
2GHz帯
2GHz帯はIMTコアバンド(Band 1)とも呼ばれます。
世界の多くの携帯電話会社で使用されている、メジャーな周波数帯です。
日本でも主力の一つとして使用されています。
マイクロ波通信の世界では、Sバンドと呼ばれる周波数帯域の下のほうです。
ちなみに、ちょっと上の2.4GHz帯(ISMバンド)は、電子レンジや無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)・Bluetoothなどで使われています。
3.5GHz帯
3.5GHz帯は、2GHz帯の補完としてキャリアアグリゲーションに使われています。
この辺りの周波数は「マイクロ波」(3~30GHz)と呼ばれます。Sバンドのど真ん中です。
電子レンジの原理から考えればわかるように、マイクロ波は湿気や雨などの水分によって電波が熱に変わってしまうため、ちょっとしたことで電波が弱くなりやすい性質があります。
また電波の直進性が高い半面、回折しづらいので、建物内に居たりや障害物があると電波が届きにくい性質があります。

5Gの周波数帯域は?

次に5G用の周波数を調べてみました。
3.7GHz帯(3.6~4.1GHz)、4.5GHz帯(4.5~4.6GHz)と、28GHz帯(27.0~29.5GHz)の3つが割り当てられていることがわかりました。
4Gよりも高い周波数帯になっています。

5Gの各社の割り当て周波数
第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」(総務省総合通信基盤局、2019年4月)より


3.7GHz帯
3.7GHz帯は、前述の3.5GHz帯と近いため、性質は同じです。
おそらく、この周波数帯域が5Gの主力になると思われます。
4.5GHz帯

Sバンドの1つ上の、Cバンドと呼ばれる帯域です。
4.5GHz帯は、前述の3.7GHz帯と近いため、性質はほぼ同じです。
この周波数帯域も、3.7GHz帯と同様に5Gの主力になると思われます。
ちなみに、かつて1.7GHz帯を使っていた、防衛省の通信システムの移行先の周波数帯でもあります。
また、ちょっと上の5GHz帯は無線LAN(IEEE 802.11a/n/ac)で使用されています。
もっと上の10GHz帯は、衛星放送(BS・CS)で使用されています。
28GHz帯
28GHz帯はKaバンドと呼ばれる周波数帯域で、マイクロ波というよりも、ミリ波(30~300GHz)に近い周波数帯です。
このあたりの周波数帯はとても減衰しやすいのですが、直進性がとても高いことから、衛星中継やテレビ・ラジオ局から送信所までの伝送回線などに使われていました。
ただ指向性が高すぎて、長距離伝送で使おうとすると風でアンテナが揺れただけでも電波強度が変わってしまい、また集中豪雨や雪のときには中継が乱れがちになるなど、当初は放送局も運用に大変苦労したそうです。
これら話から、5Gでもあてにできないのではないかと思われます。

ちなみにさらに上の76GHz帯は、衝突被害軽減ブレーキや、自動運転車で車間距離を図るレーダにも使われています。
余談ですが、2桁上の3THz帯まで行ってしまうと、もはや光(遠赤外線)の領域になります…

まとめ

5Gでは4Gよりも高い周波数帯を使用することから、従来の4Gよりも電波の届く距離が短くなるため、基地局を増設しないといけないという理屈になるようです。
解決策としては2Gから3G、3Gから4Gに移行したときのように、3Gを廃止した後の帯域を5Gに再利用したり、4Gの帯域を縮小して5G用として捻出する方法も考えられます。
ただ、5Gに必要な帯域幅が確保できるかどうか…

割り当て周波数の変遷
平成30年度 携帯電話・全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果及び評価結果の概要」(総務省総合通信基盤局 電波部移動通信課、2018年8月)より

ともかく3G・4Gのサービス開始時と同様に、最初のうちは5Gは全然使い物にならないという評価になりそうですね。
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